究極のプラセボ
- 2008.03.24
【6】指坐薬(ゆびざやく)って何? 究極のプラセボ
老人の多い入院病棟に勤務経験のある医師や看護師であれば、大抵は知っているプラセボがあります。
長く入院している患者さんの中には、慢性的な痛みの発作などで苦しまれている方も大勢いらっしゃいます。夜間などでは飲み薬や注射が使いにくいのでしばしば坐薬を頓用で使う場合があります。
「看護婦さーん、痛いです。痛み止め下さーい」と何度もナースコールをされる方もいます。
それで看護師さんは坐薬を入れてあげに行くわけですが、坐薬も1日に使える数には限りがあります。それでも何度も何度も痛みでコールされる場合、やむなく、「指坐薬」を使う場合があります。
坐薬とは、ご存知の通り、肛門から直腸内に入れる弾丸型のクスリです。直腸の中で体温で溶けて、腸粘膜から薬効成分が吸収されます。痛み止めの成分は、口からの飲み薬は胃の粘膜を障害しやすいのですが、腸粘膜に対しては比較的障害が少ないので、口から飲む痛み止めよりも多くの量を使用することができます。しかも直腸粘膜からの吸収は速いので、速く強い鎮痛効果が期待できます。
では「指坐薬」とはなんでしょうか?
入院中のお年寄りや、若くてもやや重症の患者さんの場合、坐薬は自分で入れるのではなく、看護師さんに入れてもらうことが多いですが、お尻に入る時しか感覚はわかりません。入ってしまうと、中に坐薬が入っている感じははっきりしないようです。
「指坐薬」とは、指を坐薬のようにして(ゴム手袋はキチンとしていますから、指は汚れません)、指を肛門の奥に一旦刺し込んで、それで終わり、という、一つのプラセボ治療法です。
指をお尻に差し込んだ後に
「はい、しっかり入れましたよ」と一声かけてあげれば、患者さんは坐薬を入れてもらったと信じてくれます。
実際には坐薬は入れていなくても、患者さんが
……坐薬を入れてもらったのだから、痛みも落ち着くはずだ
と安心してくれれば相当の割合で坐薬と同程度の効果を発揮します。
坐薬は何度も入れすぎると胃腸の粘膜をただれさせる危険もありますが、指坐薬の場合は当然ですが、薬の副作用はありません。
指坐薬は、肛門の感覚で痛みの感覚を逸らせてしまうのかもしれません。
あるいは夜中に一人ぼっちで寝ている場合などにその孤独感や恐怖感が強くなり、誰かに来てもらって安心したい、などの心理的な問題が、痛みとして発現してしまっているのかもしれません。
いずれにしても、心の問題は痛みに大きく関連していることは間違いないようです。