院長 平竜三のブログ診察室では伝え切れない、詳しい医療情報を語ります

膝の水を抜く理由

  • 2008.06.08

【12】溜めたままだと膝が壊れます

 「膝に溜まった水を注射で抜くとクセになって治らなくなる……」
日本全国に広がってしまっているこの不思議な迷信・民間伝説は根拠のないものです。しかしどこから発生したものなのでしょうか?

 
 よくよく探ってみると、どうも病院以外の治療施設、接骨院・整骨院・鍼灸院あるいはその他の民間療法的施設の「治療家」の人々が流している風説のようです。

 医師の行う注射行為などを否定することで、整形外科の病院に患者さんを奪われたくないという気持ちなのか、勉強不足なのか、その両方なのでしょう。もちろん、よく勉強されている立派な治療家先生も私は存じておりますし、「治療家」の方々全てが悪意で風説を流しているとは思いませんが、患者様は上記のような治療施設で膝の水を抜く治療は否定的に言われた、とよく言われます。

 
 そもそも「注射したり水を抜くとクセになる」とはどういう意味でしょうか?

 私には理解できませんし、患者様の多くも理解せずに使っているようです。恐らく「クセになる」とは、やればやるほど悪くなり、一生に渡って注射しないといけなくなる、という意味でしょうか。

 しかしこれは誤りです。その理由を述べます。

 
 膝に水が溜まる理由は前回ブログで述べました。では膝関節内に過剰に溜まった水にはどのような影響があるのでしょうか?

  • 1.炎症と痛みを増長させる。(炎症を長引かせる物質を含む)
  • 2.軟骨の磨耗を悪化させる。(サラサラしていて潤滑作用がない上に、太ももの筋力がスネの骨に伝わりにくくなるので、膝がグラグラして関節にスリコギ状の動きを起こして関節面を更にすり減らす)

 このように、良いことはありません。人間の病気に対する反応は、必ずしもそれを治す有利な反応ばかりとは限らず、放っておくと益々悪い方向に向かうこともあるわけです。

 
 では、水を抜くことのメリットはなんでしょうか?

  • 1.炎症を悪化させ、軟骨を更に破壊する物質を含む水を抜くことで、炎症が治まりやすくなる。
  • 2.注射と同時に潤滑物質(ヒアルロン酸)の注射を入れることができる。そのため、荒れた軟骨表面をある程度修復させることが可能。
  • 3.関節内の余計な体積が無くなると、筋力の伝達効率が回復して膝がカクカクしなくなるので、膝の曲げ伸ばしの滑りが滑らかになる。

 これらの作用によって、膝関節症の進行を遅らせることができます。ヒアルロン酸は膝や肩に関節注射することで、プラセボに比して明らかに痛みや動きを改善することが統計的に証明されており、「関節機能改善剤」として認可されてから長い実績があります。

 
 注射は確かにちょっと痛いことは事実です。ですが、その後の何年~何十年先の関節破壊を予防するために確かな効果があります。本当に歩けないくらいに悪化してからでは注射の効果も間に合わず、しばしば人工関節の手術になってしまいますので、最近膝が変だな、と思われたら、まずは整形外科を受診されて下さい。

 膝関節症に関しては理論的にも実際にも、「マッサージ」「電気かけ」はほとんど効果ありません。

 
 迷信に流されず、正しい治療を受けられて下さい。

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